大正硝子

当宿では大正硝子が今でも残っています。大正硝子は明治から大正時代に製造されたガラス。現代のとても平滑で厚く透明度の非常に高いガラスとは違い、大正硝子は歪みがあり、不規則な波によって光の屈折が生じ、ガラス越しの景色が曲がって見えるガラスです。それがレトロを感じさせるので、現在でも雰囲気に合わせて使っている人もいます。

大正硝子はなぜ歪で不規則な波があるのか?それは当時のガラスの製造過程によるものです。当時の町工場などでは『手吹円筒法』と呼ばれるガラスの製造方法が主流でした。それは人が吹き竿で熱せられたガラスを円筒状に吹き膨らませ、それを冷ましてから縦に切って再び熱して板状に広げるというイギリスで確立された当時のガラスの製造法で、高温の中で、さらに息の続く限りガラスを吹き膨らませなくてはならないというとても重労働、かつ熟練者でないと円筒状に膨らませるのも容易ではない過酷な仕事だったようです。ちなみに、ガラスの製造方法は大変な重労働の手吹円筒法から、アメリカのラバースが人が吹く代わりに蒸気でガラスを吹き膨らます技術、ラバース式を開発し、それが主流となっていった。機械でガラスを膨らます為、労働を軽減させ、より大きな板ガラスを作れるようになっていったようです。

手吹円筒法によって産まれたガラスは人の息でガラスを伸ばしている為に不規則なゆがみが生じるわけで、同じ形は二つとないわけです。ある近くの骨董屋さんのウィンドウの大正硝子は当宿の大正硝子に比べて歪みがとても多く、ガラス越しの商品も歪んで見えるのですが、それがまたとても味わい深く、雰囲気があって、目をとらえてきます。

当時の人の息づかいが形として残っているこの大正硝子はとても貴重です。割れてしまって新しいガラスになってしまっている箇所も所々ありますが、残っている大正硝子は大切に残していきたいと思います。ガラスの不規則な歪みを観て人間味やどこか懐かしさを感じる事は平滑な今のガラスではできない事です。大正硝子を観ていると少し歪みがあるくらいが人間的で面白いじゃないかと思えます。

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