当宿の裏手に流れる白川では毎年五月下旬から六月上旬にかけて、ゲンジボタルが飛び回ります。
それはそれはとても静かにポツポツと綺麗な蛍光色を点滅させ、観る人に情緒を感じさせてくれます。
わたしは整った環境でないと生息できない蛍が街中で観られるのはとても稀な事だと感じ、同時に川の水がキレイな証拠だなと思いました。
ここ白川付近では水辺の自然環境や水質が良いという証でもある蛍の保全を目的としたボランティア団体もあります。自身が参加させていただい時は、蛍が休む草むらや卵を産む場所などは自然な状態を残しつつ、川にあるゴミや長く伸びた水草を皆で刈ったりしました。また、ホタルの陸上活動時期の4月〜8月は草刈りはせず、土を踏まないようにと注意を促すところなど、近隣のホタルへの配慮が伺えます。
その代償というわけではありませんが、こういった活動や整った環境のお陰で源氏蛍は成虫の約10日〜2週間というほんと短い間、今時期の夜(20:00頃から)に特殊な発光細胞を化学反応させて身体を光らせ、観る人に美しさや趣き、儚さや情緒を与えてくれるのです。
知る事でより身近に親しく感じられると思い、ホタル(主にゲンジボタル)について少し調べてみました。
蛍は世界に約2000種、日本に約40種いるといわれます。その40種の中で一般的に知られてる蛍にゲンジボタル(源氏蛍)とヘイケボタル(平家蛍)がいます。ゲンジボタルの大きさは1.5~1.8cmでヘイケボタル(0.8〜1.0cm)に比べて2倍近くも大きいです。
その大きさの違いから、かつての源平合戦で勝利した源氏を大きい方の蛍に準え、小さな方を平家に準えて名付けたという説があります。
また、蛍は光るということで紫式部による「源氏物語」の主役、光源氏の名前にかけて源氏と名付けられ、その後見つかった違う種類の蛍を、源氏と対比させて平家と名付けたという説もあるようです。
この蛍は黒い腹部に赤い胸部を持ち、ゲンジボタルは胸部に十文字の黒線、ヘイケボタルは縦に太い黒線があり、それぞれを区別できます。
オスのゲンジボタルはお腹を2カ所「ピカピカ」と早く光らせて信号を発して飛んだりしながら交尾相手のメスを探します。
メスのゲンジボタルはオスよりもやや大きく、草むらにいてあまり飛ばずにお腹の1カ所を「ピーカピーカ」とゆっくり光らせてオスを待ちます。
相手を見つけるとお互いにより強い光で信号を送りあい、やがてお尻を向かい合わせて交尾します。
交尾を終えたメスは水面より50cm以内の石苔や草に産卵します(約500個)。ゲンジボタルは卵の時より光を持っているんです。
そして約30日間を卵で過ごした後に孵化します。
ホタルの仲間でゲンジホタルとヘイケボタルの幼虫だけは川の中で過ごすそうです。幼虫時期はザリガニや魚に鳥が天敵となります。
ヘイケボタルはカワニナ(巻き貝)の他、モノアラガイ(巻き貝)を食べますが、ゲンジボタルはカワニナ(巻き貝)しか食べません。成長になるまで40〜50個のカワニナを食べるようです。更に成長に合った大きさの貝が必要なので、カワニナが生息できない場所には当然、ゲンジホタルも生息できません。
ゲンジボタルは6回の脱皮をしながら幼虫期を約9ヶ月間水中で過ごし、4月に上陸し、草の生えた柔らかい土の中にもぐって土まゆを作り、そこでサナギになります。約50日間を過ごした後、ようやく羽化して成虫(約10日〜2週間)期間を謳歌するのです。ちなみに成虫の時は何も食べないようです。天敵は蜘蛛。
ゲンジボタルにとっては、1.5〜2.0mほどの川幅に20〜30cmほどの深さで流れが遅く、濁りも無く水質も良い(水質階級2)川で川底に小石や砂などが多く、川岸は砂まじりの少し濡れた柔らかい土で草が生え、低い草木で覆われている場所で、周辺は桜などの日陰ができる木が多く、街灯や車のライトが無い暗い所が住み良い場所で、昨今の現状ではなかなか難しい環境である事がわかります。また近年、コモチカワツボといった食物連鎖を壊す外来種もいるようなので尚の事です。
わたしは時々、川にペットボトルやビニールの袋など、不自然な物が川に投げ捨てられるのを見ます。とても残念な光景です。川は様々な生き物が水を求めて住んでいます。子供にとっては危険なこともありますが、たくさんのことを学べて様々なことを体験できて楽しめる場所でもあります。
京都は街と自然とがなかなかうまく共存できていると思います。その理由のひとつとして、街に川が流れていることが大きな要因ではないでしょうか。わたしは自然を壊さない為にも川とどうしたら親しく、また楽しめることができるかを考え、自然とうまく共存できる街を少しでも守っていければなと思います。ホタルの光りはとても優しく、儚く、ほんと綺麗です。この光景が来年も、再来年もずっと観れる光景であってほしいと願ってやみません。
また、左京区下鴨神社にて毎年6月上旬に催される蛍火の茶会では、境内に600匹もの蛍が放たれ、幻想的な空間を体感できます。
この時期に京都へお越しの際は一度足を運ばれては如何でしょうか。